美しいものと色
「六月は薔薇の季節だ」と人は言う。
庭の薔薇は雨に濡れていた。
キラキラしていて、凄く綺麗だと思う。
でもまた人は言う。
「花は枯れるから綺麗なのだ」と。
僕の目にも浮かぶ、三日後の朽ちた花弁の茶色が。
果敢無いから綺麗。
脆いから輝く。
「シンメトリーで綺麗」
常に投げかけられるその言葉。
灰色の空から雨はしとしとしとしと。
黒くピンと張った傘の上を撫でる。
僕は片手をポケットに突っ込んで歩いている。
布で出来たその中はガシャガシャと色んなものがぶつかる音がした。
混じる音の群れ。
隣にいる馨も同じ色の傘を持って、同じ音を出している。
ポケットの僕の右手は何かを捕まえた。
引っ張り出してみると数日前に見た白の包み紙。
白の上に苺の絵が浮かんでいる。
ハルヒがくれた物であることを思い出した。
パリパリと音をたててビニールの包みを解く。
目に焼きつくのは三角の欠片の赤。
口の中に放り込む。
雨。雨。雨。雨。飴。
馨の口の端。触れるだけのキスをする。
傘がぶつかった。
「甘い」
「ファーストキッスは苺の味ってね」
「初めてじゃないじゃんか」
空の灰色、傘の黒に、飴の赤。
雨のしとしと。ポケットのガシャガシャ。胸の、ドキドキ。
いつか壊れてしまうものだから。
消えてしまうものだから。
朽ちてしまうものだから。
枯れてしまうものだから。
大切にしたくて、馨の指をぎゅっと握った。
(060618)